【レビュー】『医師は最善を尽くしているか―医療現場の常識を変えた11のエピソード』
今回の書籍
タイトル :『医師は最善を尽くしているか―医療現場の常識を変えた11のエピソード』
著者 :アトゥール・ガワンデ
出版社 :みすず書房
発売日 :2013/07/19
価格 :¥3,520
読了年月 :2021/09/18(学部3年)
作品紹介・あらすじ:
手洗いの徹底で院内感染をゼロにできるか? 兵器は進歩しているのに、なぜイラク戦争では負傷兵の死亡率が第二次世界大戦時の3分の1にまで下がったのか? 新生児の死亡率を30分の1から500分の1まで激減させたある麻酔医の工夫とは? 医師の仕事とは正確な診断をつけたり、手術の技術的な腕前を磨いたりすることだけではない。臨床現場のなにげない習慣や姿勢によって可能になる医療の「改善」を描くノンフィクション。
読みやすさ:★★★★★
1章20~30ページ程度の短編なので、集中して読みやすい。
面白さ:★★★★☆
話ごとにきっちり医療関連のテーマがあり、趣も変わるので面白く読めた。
日本と米国の違いから少々読み飛ばしもした。
医学知識:★★☆☆☆
医療の変遷や転換点について軽く触れてある程度だが、好奇心を掻き立てる呼び水としての効果は期待できるかも。小噺ひとつで記憶の定着も変わってくるので、緩く出てくる知らない単語は大歓迎。
感想
実際の医療現場の取材を題材に、「手洗い」や「感染症根絶」についての歴史や進歩・転換点を綴っていく。その中には医療従事者として姿勢を正させるようなくだりもあるので、読んでいてハッとなる。あとがきによると訳者は、医学生や研修医にこそ読んでほしいとしており、どうりで知識がないのに読みやすかったわけだと膝を打った。
自分用メモ:
「手洗い」コロナ禍の今、いやというほど言われてきた手洗いについての歴史は興味深い。
「掃討作戦」感染症を掃討する壮大さとその実績。
「戦傷者」死者が減るのは銃火器の強化に医療の進化が勝っているだけ。新技術を待つだけでなく、既存技術の組み合わせでパフォーマンスを改善できる可能性がある。
「裸」患者との距離感。近すぎれば誤解による不信、最悪訴訟である。自分だったらどんな距離感が良いだろうか?私は仕事によるリスクを避けたいので、業務に支障が出ない程度に堅牢な壁を築くことになりそうだ。
「医師が尽くす相手」(医療過誤)医療訴訟に原告が勝つには、原告が如何に被害妄想的でないか、がとても重要である。(陪審員制度のアメリカの話ではある)交通事故。
「医師の給料」この話の書き手は「医師になると決めたとき、少なからず社会への貢献に根差したはずだ」という考えで医療をビジネスととらえられなくなっている。その前提はおかしいと思うのだが。職業でしかない。支払い体系の話は米国準拠なので参考にならないかも
「死刑執行室の医師」米国では薬殺刑のために医療従事者の協力が必要になるみたいだけれども、日本では死刑に医師がかかわるのかな?死亡確認のみかな。
「戦い」医療は不確実性の塊である。「確実に」治せないということはなく、それはあらゆる手段を尽くし試していないに過ぎない。しかし、効くかもしれない治療を探し適用するというのが常に正義であるわけでもない。それは肉体的にも精神的にも苦しみを与える結果になるかもしれない。どうするのが良いのか常に考え、戦うしかないのではないか。おそらくそこに答えが無くとも。(個人的にはこれは無限の労力なので、冷酷に割り切りたい)
「スコア」砕頭器cranioclastなんてものがあるのかよ。名前聞いただけですべてを察する。アプガースコアという臨床現場でのちょっとしたアイデアが功を奏しているらしい。ひと工夫が強い。
「ベルカーブ」医療の品質をグラフ化するとベルカーブになるらしい。自分のいる施設がどの辺にいるのかなんて知らない方が幸せな気もする。医療者にとっては。被医療者だったら知りたいよなあ。
「パフォーマンス」医療知識を持っていること以上に、単純な工夫でもパフォーマンスを上げられる。そのことを意識できているか?という話。