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【レビュー】『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』

今回の書籍

タイトル :『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』

著者   :ウェンディ・ムーア

出版社  :河出書房新社 

発売日  :2007/04/01

価格   :¥1,188 (kindle版)

読了年月 :2021/10/11(学部3年)

 

作品紹介・あらすじ:

膨大な標本、世界初の自然史博物館、有名人の手術、ダーウィンよりも70年も前に見抜いた進化論…。「このジョン・ハンターはまぎれもなく、イギリスの誇る奇人の伝統を脈々とうけつぐ人物であり、その影響は医学の世界をはるかに凌駕している。かれの奇人ぶりは群をぬいており、それが証拠にかれは当時、そしてその後の小説などに多くのモデルを提供している。本書を抜群におもしろくしているのは、そうしたかれの奇人的なエピソード群のためであり、そしてそれが現代のぼくたちにつきつける問いかけのためだ。」近代外科医学の父にして驚くべき奇人中の奇人伝。奇人まみれの英国でも群を抜いた奇人!『ドリトル先生』や『ジキル博士とハイド氏』のモデルとも言われる18世紀に生きた「近代外科医学の父」を初めて描く驚嘆の伝記。

 

読みやすさ:★★★★☆ 

16章立ての各章は、ハンターを取り巻く出来事や人物をつらつらと語っている。ポット出の名前だけ程度の登場人物が少々多いので、食傷気味になるかも。医学史や哲学史などを読んでいれば、知っている名前が出てくると少しは楽しめるのだが、しんどい人は名前やその人の説明をサッと読み飛ばしていいだろう。

面白さ:★★★★☆ 

偉人で奇人な外科医の破天荒人生といった感じで飽きない。特に、たびたび見られる当時の常識とハンターの考えとの対比を描くパートでは、彼の先見性を感じられて感心させられる。

医学知識:★☆☆☆☆

今となっては常識とされているものばかりなので、医学の知識として得るものは特に無い。しかし、彼の実践した研究姿勢や科学の在り方については、少し思うところもある。単純ながら論理的な実験内容もタメになるかもしれない。

 

感想

 死体大好きマッドサイエンティストのイメージが強かったが(というか明らかにそうだが)、人間の治療に対してもしっかり取り組んでいたらしいと知りイメージが変わった。解剖に精通し従来の医学に懐疑的な知見を得た彼だからこそ「医学のため、後世のために、目の前の患者には仮説の実験台になってもらおう」という傾向が強く、実験的で狂気的側面があるのは変わらない。人物像も聖人のような面以上に偏屈な頑固者という感じで、それが彼の物語を読んで楽しいものにしてくれている。

 現代科学の仮説→実証を、医学の世界で徹底的に実践した人物である(ただし、当時の死者に対する宗教観により再現性に必要な頻回さは確立できていない面もある)。正直、私たち現代人が読めばそこまで変なことをしているのではないと感じるのだが、それこそが彼の凄いところで、「18世紀当時は異端だが、後の世で基本となる研究姿勢」を持っていたということである。時代に対して非常に進歩的というか、時代の先を行っていた。科学者たるもの、疑問の追究は恥じることではない。時代が進むほど、乗れる巨人の肩はどんどん大きくなっていき、疑うのが難しくなっていくことも事実であろうが、それを免罪符として易きに流れることの無いよう、肝に銘じたい所存である。

 そして、グラスゴーにあるハンターの蒐集物が展示されているハンテリアン博物館にはぜひ行ってみたい。

 

自分用メモ:

あまりに登場人物の心情を書きすぎていてフィクションとノンフィクションの間って感じがするけど、まあここはノンフィクションということで。

締めの義弟には唖然としましたよ…。