【レビュー】映画『死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実』
医学関連の映画を観た。せっかくなので感想を残しておくことにする。
今回の映画
タイトル :『死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実』
監督 :パリー・レヴィンソン
制作年 :2010年
鑑賞年月 :2021/10/07(学部3年)
作品紹介・あらすじ:
医師ジャック・ケヴォーキアン(パチーノ)は1980年代、病状が末期を迎えた患者たちを苦痛から救うべく、彼らの自殺幇助に関わり始める。その数、130人以上。そのせいで“死の医師(ドクター・デス)”なる異名で呼ばれ、全米のマスコミからも注目を集めたケヴォーキアンだが、ついに逮捕されてしまう。全米が安楽死の賛成派と反対派で二分され、両者が激しく議論を戦わせる中、彼に下った審判とは…。
感想
アメリカで安楽死問題を巻き起こした実在の医師の物語。「真の医療とは患者の苦痛を取り除くことであり、安楽死と呼ばれるものは殺人ではなく医療である。」 という信念に基づき、安楽死用の薬剤の準備のみならず直接の投与を行った。当初、この形での自殺ほう助は法律に規定が無く、故に罪には問われなかったのだが、彼の活動が世間に知られるにつれ、(賛成の声も増えたが)否定の声が増えていき州法が制定されるに至っていく。ここまででもよくそんなグレーゾーンをやってきたなと、その信念を貫く強さに驚く。しかしそれだけにとどまらず、自ら薬物の投与を行い、より大きく報道されることで「市民たちに安楽死に関する議論を巻き起こす」ことを最も重要視していたことである。
裁判の結果は彼を殺人犯とし、英雄視こそされないが、自分の身を顧みずに安楽死という医療を前進させることに尽くしたのである。私ならそもそも、いかにも問題になりそうな自殺ほう助まがいの行為すら行いたくなく志の高さには共感はできない。しかし、何かを変えたいならば世論の変化が往々にして必要であり、そのためには市民に対してショックを与える荒療治が有効であるとする考えは理解できる。
「安楽死」あるいは「殺人」とされるものは、本人の真の希望なのか、精神衰弱が導く気の迷いなのか、死に瀕する者の生への執着を無くす圧力となってしまうのか、家族による厄介払いを招くのか。招く結果が死という人類最大のタブーとされることであるがゆえに現状維持バイアスが強くかかり、否定の声があがるのだろう。正直、この手の問題は答えを出して後世にも使える基準を打ち立てることが正しいのではなく、議論され続けてその時代ごとにアレンジされ続けるものだろう。だからこそ、無尽の労力が必要となり、それを提供してくれる人間の存在が輝く。
一応、北欧のどこかでは自殺ツアーと揶揄される活動があるらしいので、興味があればそちらも調べてみると良いだろう。